夢の共演
≪7≫
◎4月21日午後 石川と岩瀬は少し遅い昼食を済ませた後、2時から行われる各種の小委員会用会議室のあるフロアーを巡回して来ていた。 フロアー担当の室班隊員に的確な指示とともに励ましの言葉もかけていく。 会議出席の為に集まりはじめた議員やその秘書、そして大臣級議員付のSP達までもが知らず知らずのうちに、そんな石川隊長をある種の熱い眼差しで追ってしまうのだった。 もちろん、傍らに聳え立つ岩瀬の背中が、さりげな〜く、だがキッパリとそれらの視線から、石川の姿を遮断しまくっているのは云うまでもない(笑) そろそろ次のフロアーへ移動しようと、中央階段を降りはじめた時、石川の無線が鳴った。 「はい、石川だ」 『隊長にご面会の方がいらっしゃってます。 EPNO尾方支局長です。』 無線の相手は外警監視室に詰めている副班長の羽田だった。 「EPNOの… わかった、お会いしよう。 N館エントランスにご案内してくれ。俺達もすぐ行く」 『了解!』 石川は岩瀬を伴って移動しながら、再び無線を繋げた。 『はい、中央管理室・篠井です。』 「石川だ。 各班長に召集をかけてくれ! 客人を案内する。」 『了解! 会議室の準備もしておきます。』 「お願いします。」 尾方の来館をモニターで見ていたのであろう篠井は、石川の意思を瞬時に読み取っている。 N館エントランスで西脇によって案内された尾方を出迎えた石川達は、簡単な挨拶をすませると、すぐさま4人で班長達の待つ会議室へと向かった。 4人が到着すると会議室にはすでに篠井とマーティーの他、紀伊、野田、三舟、アレクの各班長と、爆班からは森繁の代わりに副班長のクロウが来て全員揃っていた。 それぞれが席に着くと、石川が簡単に双方の紹介をすませた。 「この度は、こちらにはご迷惑をお掛けする事になり、申し訳ないです」 「あ、いえ… ここ議事堂にいかなる人物がお越しになろうとも、全身全霊をかけて警備するのが、我々の任務ですから!お気使いなさりませんように!」 神妙な尾方の言葉を受けて石川がそう答えると、班長達も誇らしげに頷いている。 「さすがはJDGですな。 あの内藤が自慢するワケだ。 」 尾方は、さも満足げに微笑んだ。 「えっ、“内藤”って『テロ対』の内藤さんの事ですよね?!」 「ええそうです。 時々顔を合わせば、よくこちらの武勇伝を聞かせてくれますよ。 あいつ自身はここの隊員でもないくせに、まるで我が事のように… あれは絶対に“自慢” ですな!」 そんなほめ言葉に、メーバー達は『あの内藤さんが・・・』と、目を丸くして驚いてしまう。 ただ一人、西脇だけは片手で顔を隠しながら、くくくくと笑っている。 そんなふうに打ち解けたところで、そろそろ本題にと、尾方が話を向けた。 「さて、23日当日の件ですが、一つお願いしたき事があるのです」 「何でしょうか?!」 「公爵訪日の間“フロイライン・ユウコ”様がパートナーとして同行なさる事はご存知ですかな?」 「はい。 外務省より連絡を受けております」 「議事堂視察にもご同行なさる予定と、お聞きしておりますが?!」 石川と篠井がそれぞれ返答する。 「その時、ユウコ様に、こちらの隊員の中からどなたかお一人に、SPとして付いていただきたいのです」 尾方の要請にメンバーの間に一瞬緊張が走る。特に岩瀬の表情がとりわけ厳しくなった。 過去において、委員会の命令により外部に借り出され、石川から離された時の苦い経験が脳裏に甦っているのだ。 「それはどういう事ですか?」 いくぶん眼光を鋭く光らせた西脇が尾方に問いただす。そんな一同の空気に気が付いた尾方は、苦笑をにじませながら答えた。 「あ、いや、ご不審はわかりますが、ご懸念無用です! 隊長や副隊長のSPを借り受けようなどとは思っておりませんので。」 自分の言葉に、メンバー達の緊張がとけたのが尾方にはわかった。 「この度のユウコ様のご同行は、日本側外務省の一方的な“企て”とでも申しましょうか… 実は、この事はドイツ側、ことに“公爵”サイドにはいまだ極秘のことなのです」 「それって、もしかして『恋人達のサプライズ再会vv』なんていう企画ですか?!」 アレクがちょっとおどけていえば、続けて三舟までもが 「あの事務次官補なら、考えそうだな(ーー;)」 などどぼやいてみせ、一同に呆れ笑いが広がった。 「ご明察の通りです。」 気苦労がうかがえる表情で尾方が肯定すると、三舟が続けた。 「そのくせ、外務省側は“ユウコ様”のSPを自分達では用意しない、と云うことですね?!」 「まあ… そういうことです。 外務省や警察のSP達は、ドイツ使節団の政財界の要人警護に手いっぱいで『日本人である“フロイライン・ユウコ”様まで手がまわらない』という事らしいです」 そりゃまたお役所思考なことを・・・と、全員が呆れ帰る。 「かといって、ドイツ側には秘密にしているわけですから、あちらのSPや、ましてや公爵家の近衛官には要請できないわけです。」 尾方はますます困りきった顔になった。 「失礼ですが、それでしたら尾方さん、あなた方(EPNO東京支局)のエージェント諸氏が警護なされればどうなのでしょうか?!」 それまで、静かに聴いてた篠井が無表情ともとれる冷静さで言った。 その提案に尾方は、 「えぇ… 通常なら。前回の訪日時にはそうしているのですが。 なにぶん、今回はそれもできないのです。 なぜなら、…これも外務省の“企て”なのですが、公爵訪日を密着取材する為にTVクルーが終始はりつくわけで… 私どもの機関はその職務上、エージェントたちがマスコミに顔を曝すわけにはいかないのです(ーー;)」 まさに四面楚歌…ってところだ。 「わかりました。では、国会内においては当方にてSPをお引き受けいたしましょう!」 「ご承諾ありがとうございますm(_._)m」 快い石川からの返事に、尾方はほっと一息ついた。 すると、はーいvとアレクが手を上げ立候補する。 「じゃぁ、その役、私がやりましょうか?!」 「そうだな! 頼むよ」 OKを出した石川は、アレクの事をあらためて尾方に紹介する。 「彼はうちの開発班長であると同時に、ISPL所属の優秀なSPでもあります」 「オレも保証します!」 岩瀬も笑顔で推薦する。 「それは心強いですな!! 宜しくお願いいたしますm(_._)m」 「あ、はい! 素敵なレディーの護衛ができる事を光栄に思います♪」 尾方から丁寧に頭を下げられたアレクは、ちょっと恐縮ぎみであるけれど、どこか楽しそうに“フロイライン・ユウコ”の写真を眺めている。 斜め前の席からマーティーが、じとーっと嫉妬の視線を送っていることも気付かずに;; (笑) そんな二人の様子を苦笑しながら眺めていた西脇が、ふと気が付いて呟いた。 「普通この手の話は、委員会が“命令”と称して云ってきそうなはずなのに、今回の『公爵視察』に関しては、最初っから外務省から直通ですね?!」 「そう言えばそうだなぁ〜…」 石川が頷くと、メンバー達も皆、思い当たって不思議がりはじめた。 「こっちは、その方がありがたいがな!」 三舟が辛辣に言いのければ、全員が『まったくだ!』とキッパリと賛同する。 すると、尾方が口端に微かな笑いを滲ませて言う。 「私の方で掴んだ情報によれば、今回の公爵来日に関しては、どうやら総理が外務事務次官補に一任しているようですぞ。」 またもや一同に驚きが広がる。 「そういうワケか! ははは♪ あの総理が本当の首謀者なんですね(^^;) だから委員会につべこべ言わせないワケだ」 こりゃ〜いいvv と、西脇などは露骨に笑いだした。 尾方も内藤よりJDGと委員会との確執を少しばかり聴かされているため、彼らの反応を暖かい目で見ている。 と、そこへ、PーPー と、石川の無線が鳴った。 「石川だ。 どうした?!」 客人を交えての重要な会議中にもかかわらず、無線連絡して来るということは、余程の事が! と、全員に緊張が走る!! 『真田です。 ただいま外務事務次官補より至急の連絡が入っています。 ご用件は公爵視察に関してとの事です』 ちらりと尾方を伺いながら石川は応答する。 「わかった。 かまわないから、ここに継いでくれ」 『了解しました』 無線を終えた石川が皆に説明をすると、すかさず野田が手元のコンソールパネルを操作する。すると、正面の壁面が一部スライドし、大きなモニターが現れた。 外部通信が、中央管理室から切り替えられると、こちらの画面に外務事務次官補のにこにことした顔がアップで映し出された。 『やぁ、皆さんお揃いですね♪』 すこぶるご機嫌な様子だ。 「お待たせいたしましたm(_._)m」 石川が応答する。 『あ、やはり尾方殿もまだいらっしゃったのですね。それは都合がいい♪ あなたにも連絡を取ろうと思っていたところなのですよ』 先方のモニターには、この会議室全体が映し出されているようだ。 「で、本日はどのようなご用件でしょうか?」 『いや、実はですね、東京ご滞在中の公爵様のご予定を若干変更させていただきました。 今、メールで新しいスケジュール表を送りましたから、まず、それを見てください』 再び野田がパネルに指を走らすと、モニターがマルチ画面に切り替わった。事務次官補の姿は右下隅に追いやられ、それに取って代わりスケジュール表が大写しとなった。
「けっこう変わっていますね…」 ぼそりと篠井が言えば、 「これのどこが“若干の変更”なんでしょうかねぇ〜(ーー;)」 と、岩瀬もぼやいた。 『見てくれれば解るように、議事堂視察は23日の午後1時〜4時までとなりました』 「えらく時間が長いようですが… “観閲式”と“ガーデン懇親会”は新たに加えられた行事ですね?!」 以前知らされていたスケジュールでは、23日の午前中の訪問で、しかも、中庭での記念式典と館内視察だけだったので、1時間ほどの来館予定になっていた。 それが午後の3時間にもなっている。 これだけ変更されれば、隊員シフトや警備体制の計画を練り直さなければならないわけだが… 相変わらず、お役所は現場の事情などお構いなくやってくれる…(〜〜;) 『ええ、そうです。 公爵来館後、そのまま中央エントランス・ホールで記念式典を行い、続いて南広場にて観閲式を行います。 そうそう、この観閲式はJDGと警視庁との合同で行いますので、宜しく♪』 「えっ! 警視庁と合同とはどうゆう趣向でしょうか?!」 まるで、なんでもない付け足しのように、さらりと飛び出してきた爆弾発言に、慌てて石川は説明を求めた。 『あぁ、それはですね、今回の公爵訪日はマスコミの恰好の絵になる的ですからね、警視庁としては、沿道や周辺警備だけという地味な裏方だけでなく、イイとこ見せたいわけですよ。JDGだけに晴れ舞台を独占させずに自分(警察)達にも参加させろって云うのが、警視総監殿の本音ですね。 と、云うわけで、観閲式には警視庁騎馬隊と警視庁音楽隊が加わって、諸君等を盛り立ててくれるそうだ♪ 隊列編成などについては、直接あちら(警視庁)と相談して下さいね♪』 メガトン級の難題を、さも楽しげににこにこと告げられ、石川達は唖然と言葉につまってしまった。 『観閲式の後、休憩を挟んで館内視察を行います。その後、3時から中庭において、招待客との和やかなガーデン・パーティーの予定です。』 「招待客は、どういう人選で何名ほどになる予定ですか?」 『ケルン市と何らかの関係がある自治体や企業などとの親善が目的ですから… 今朝から名簿を集計しているところです。決定しだいあらためて連絡しますよ。 まあ、ケルン使節団から数人と日本側から20〜30人というところでしょう。 それとですね、アクトナインの連中には密着取材のため全撮影許可を与えていますが、記念式典と観閲式の時だけは、国会記者クラブの連中にも取材させてやってくださいね。 あぁもちろん、取材場所は制限固定してくれて構いませんからね』 ぐぐぐぐっっ、またもや爆弾発言がっっ!! 何故に事もあろうに派手なパフォーマンスの場をこの国会議事堂なんかに選びやがったんだっっっっっっ!!!!! と、先ほどから、西脇は声には出さずにそう毒づきながら、額に青筋をたてまくり、今にもキレそうな自分を理性で押さえている。 かたや、尾方は尾方で、頭を抱えている。 なぜなら、派手バテしい観閲式などやろうものなら、デートリヒ(公爵)のご機嫌が悪くなるのがわかっているからだ(ーー;) まあ、友好親善の場で大人気なく不機嫌な態度をなさるような方では無いことも心得てはいるのだか・・・ そんなこちら側の様子などおかまいなしに事務次官補は、伝えるべきことはもう済んだ、とばかりに『では後は宜しく』と、言い残しプツンと通信が切れた。 一瞬の静寂の後、各々から盛大なため息がもれた。 「大げさな行事になりましたね;;」 「ああ… 一から警備対策を練り直さなければならないな」 険しい表情になった石川を、岩瀬が労わる様に見つめている。 「… ご苦労をおかけしますm(_._)m」 座ったまま会議机に手をついて尾方が頭を下げたので、石川は慌てた。 「あっいや、顔をお上げ下さい!」 たとえこれが“公爵来訪”のせいだとしても、公爵本人や、ましてや尾方がすまなく思う必要などあろうはずがない。 そう、元凶はすべて、この計画をぶち立てた外務次官補なのだから!! 「ああ… では私もそろそろ失礼します。」 尾方は班長達全員に宜しくお願いしますと握手をかわし、フロアー担当の室班隊員にエントランスまで見送られて帰っていった。 会議室に残った石川達はその後も、内藤や警視庁と連絡を取り合い、3時間におよぶ会議をおこなったのである。 「よし、この案でいいな!」 「ええ。 あとは当日の状況次第ですね」 「ああ。 じゃぁ、明日の朝礼は非番も含めて全員参加にする。その時にこの決定事項を通達する事にしよう」 「「「「「了解」」」」」 「では、解散!」 つづく |
≪ | ≫ |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||