夢の共演

2≫

 ―それは1週間ほど前のこと…

        ◎4月15日
                     緑…ドイツ語

 何事もなく1日を無事に終えた南苑は、南苑家の自室で寛いでいた。
 入浴も済ませ“ミヒャエル1”を話し相手に琥珀色のグラスを傾けていると、控えめなノックと共に執事の堂本が電話の取次ぎを告げてきた。

 それは、ドイツ本国よりの国際電話だった。
 ケルンにある本宮殿の執事長ビュルガーがかけてきたその用件は、日本政府からの公式招待に関してであった。

 その件では昼のうちに、すでにEPNO東京支局の尾方局長より『外務省が“公爵”を公式招待するべくなにやら各方面へ働き(根回し)かけているようです』という情報を得てはいた。

 ビュルガーの話しによると、日本の外務省事務次官補から直接、訪日要請の連絡があった後、相次ぎ、駐独日本大使、駐日ドイツ大使、ケルン市長の3方からも『ぜひ、ご招待をお受け下さい』と、“ご機嫌伺い”という名の催促があったらしい。
 特にケルン市長が平身低頭だったとか…(ーー;)
 どうやら、今回の日本政府による公爵招待計画は“ケルン市長の左足骨折事故”が、きっかけになったらしい…


 と、いうのも…そもそものきっかけは、本年が【日本におけるドイツ・イヤー】の年度にあたり、日本各地でいたる所で記念イベントが催されている。
 その為、各イベント毎に姉妹都市など、縁の地の市長などが相次いで訪日し、それぞれの式典会場で来賓としてテープカットなどに出席しているのだ。
 その一環として来週から、ケルン児童合唱団の来日公演が東京をかわきりに、ケルンと姉妹都市縁組を結んでいる京都、そして地方都市の岡山と福岡で催されることになっている。
 その時、合唱団と共にケルン市長も来日し、演奏公演や歓迎レセプションに出席する予定になっていたのだ。
 だが運の悪い事に先日、ケルン市長は議会場の階段をうっかり踏み外して転落し左足を骨折ししてしまい、その為、訪日が不可能になってしまったのである。
 来日公演の主催者団体が市長の替わりに誰を来賓として迎えるかで思案していたのを、いち早く外務省が嗅ぎ付け、ならば“ケルンの公爵”に白羽の矢を立てたという次第である。


 その“ケルンの公爵”こそ、この南苑道義なのだった。
 彼の本名はデートリヒ・ヴィルヘルム・フォン・エンツェンスベルガー公爵
 700年余も続く欧州きってのドイツ・ケルンの名門大貴族の一子として生まれた彼は、幼い頃より命を狙われ続けている。その為、護身術を身に付ける意味合いと諸事情にり、身分地位を隠し、自家が所有する私設情報機関・EPNOのエージェントとして日本にやってきているのである。
 その日本での偽名が“南苑道義”なのだ。 彼の祖母(前・公爵夫人)が日本人であったため、その祖母の実家だった洋館に住まい、名も祖母の旧姓である南苑を名乗っているのだった。
 もちもん、そんな事は極秘中の極秘事項で、ほんの一握りの関係者しか知らない事なのだ!!
 ちなみに、彼のエージェントとしての腕はトップクラス級である。
      
<コード・ネーム“ジルバー・アードラー”(銀の鷲)>


 ところで…
 通常だとE家では親善使節団などその類の招待ならば、丁重にお断りしていたところなのだが、事務次官補から「妃殿下も再びお目にかかれる事を、お心待ちになさっておいでです」と言われてしまっては無下にもできないデートリヒだった。
 なぜなら、前回の来日時に妃殿下主催の舞踏会を、自分が狙われた毒殺未遂事件が発生した為に、台無しにしてしまったからだった。

 そんな訳で、E公爵として今回の日本政府からの招待を受ける事にしたのだ。

「しかたないな(ーー;) では…5日間ほどの滞在予定でご招待をお受けすると伝えておいてくれ」
『はい、かしこまりました。 ところで…今回は“公式訪日”となりますが、御供の者はどのようにいたしますか?』
「ん、そうだなぁ… ぞろぞろ引連れてまわるのは嫌だしなぁ〜… どうせ、ホテルでの滞在になるだろうから人手はいらんだろ… 」

 南苑は、電話の相手がビュルガーという気安さなのか、先ほどまでの当主としての威厳ある口調とは打って変わり、ぶつぶつと独り言を呟きながら考えている。
「よし、決めた♪ ビュルガー、すまないがこの電話、コンラートに繋いでくれ!」



         ◎4月16日


 翌日、南苑は朝から部下の木島と仲野を連れて、EPNO東京支局の局長室を訪れた。
 三人を向かえ、執務机から応接セットに移った尾方局長は南苑にソファーをすすめる。その南苑の両端に木島と仲野は立っている。
「局長の情報通り、やはり昨夜、ケルンのほうに外務省から正式にコンタクトがありました(ーー;)」
「そうでしたか。で、承諾したわけですな…そのご様子では(笑)」

 尾方局長とこの部下二人は、『公爵=南苑』という事を知らされている数少ない面々なのだ。

「前回の不義理の事もありますから… おとなしく承諾しました」
「ははは それはそれはご苦労様です」
 二人は苦笑し合う。いつもの上司と部下という立場と違い、今は公爵としての話題のせいか、局長の口調には敬語が混ざっている。
「ではまた、木島達を使って“お忍び滞在”から“お出まし”しますか?」
「いえ。“公式招待”となってますから、訪日そもそもを公にしなくてはならないので1度、オレは日本から消えます。その後、本国から“公爵”として近衛官と執事を伴って正式に来日します」
「んじゃ、今回オレ達は用無しっつう事かぁ?」
 木島がソファーの背凭れに手をつき身を乗り出すようにして聞いた。
「ああそうだ。久しぶりにここのトレーニング・ルームにでも通うか? それとも、中尾に付いてこき使ってもらうか?(笑)」
「げっ…」「わ♪」
 支局きってのトップ・エージェントの名前を出されて部下二人はそれぞれ正反対のリアクションで応えた。
「ははは… とりあえず、わしが預かっておく事にする」
「きょくちょぉ〜 お手柔らかにお願いしまっすぅ(^^;)」


 支局を後にした3人は、南苑がオフィースとしているマンションに帰って来た。
 すると、ミヒャエルがドアの前にお座りして迎えてくれた♪
 リビングでソファーに寛ぎ、留守を守っている事務の理保子がいれてくれた美味しいコーヒーを飲みながら、南苑は彼女にも、しばらく留守をする事を告げる。
「明後日から12日間ほど、オレ一人で欧州出張に行く事になった」
 彼女には南苑が“公爵”であることを隠しているので、今度もジルバー・アードラーとしての“任務”で出掛けて行く事にしてある。
「まあ、急なんですね。」
「その間、こいつ等は局長の指示下に就いて、支局の方に出勤する事になるから、理保子は休暇を取ってもいいぞ」
「そうだ…たまには実家に帰省してくれば?! もう長い事、おふくろさんにも顔を見せてないんだろ?」
 木島が気の利いた提案をする。
「ええ。でも…ミヒャエルはどうなさるんですか?」
 理保子の言葉を受けて、皆が視線を、足元に伏せたミヒャエルに移せば…なにか期待を込めたような、うるうる眼でミヒャエルが南苑を見上げてくる。
「こいつはうちの執事に任せてあるから大丈夫だ」
 南苑が口元を微かにほころばせ頭をなでてやりながらそう言うと、ミヒャエルはがっくりと項垂れて、ちょっと寂しそうに再びフテ寝をはじめてしまった。
「あらあら…ふふふ、じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます♪」
「ボク達のことは気にしないで、ゆっくり羽を伸ばして来て下さい♪」




                               つづく




※1 “ミヒャエル”……南苑の愛犬(ボルゾイ犬♂)
以前はデイモスと名乗る盲目でテレバシストの殺し屋が飼っていたのだが、彼の死後、その魂(意識)が愛犬に乗り移ってしまった。あるきっかけで南苑が引き取りミヒャエルと名づけ飼い始めたのだ。
すると驚いたことに時々、元殺し屋デイモスの意識が蘇り、南苑とテレパシーで
会話をするようになり、今では南苑に忠誠を誓っている




第二話は友人のオリキャラばかりの登場です!
次回は、また別のキャラ達がぞろぞろ出てきます(^^;)

どうか見捨てないでくださいませぇ〜;;













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送