新時代到来
<7>
翌18日の朝。 MPカンパニー・ビル5階にある第3会議室の前の廊下に、人だかりができていた。第3会議室は、さして広くもない部屋なので入り口は1ヶ所しかない。そこにわらわらと社員達が集まって来ているのだ。 「すげーな!」 「ほんとに間に合わせやがったぜっ!!」 「ステキぃ〜!!!」 覗き込んでいる者達から次々に感嘆の言葉が飛び出している。 部屋の中では、プロジェクトのメンバー8人に加え、社長の宮坂と本部長の武田が、4体のマネキンを前に並んでいる。 そのマネキンには完成した石川の正装ユニホームが4シーズン分それぞれに着せ掛けられ、左から春・夏・秋・冬と並べられている。 <春用>は、爽やかな若草色の地色の生地に、淡い桜色の小花が肩から裾にかけて徐々に刺繍糸の濃さを増しながら散りばめられている。スタンド・タイプの襟とそれに続く身頃の縁取り、そして袖口の折り返しは濃いグリーンになっている。ズボンは春・秋兼用となり、アイボリー色の生地でサイドには金モールのアクセント・ラインが入っている。 <夏用>は、通気性のよい生地が使用され、眩しいほどの純白の地に銀糸で小花が刺繍され、所々はビーズが施されている。襟・袖・ズボンのアクセント・ラインは銀のモールが使われている。そしてドレープ・ストールは淡いブルーの総チュール・レースでできている。 <秋用>は、夕焼けを思わせる茜地に黄色の小花が散っている。その小花の所々には金糸が使われていて、アクセントとなっている。襟などは春用のパターンと同じで、色はブラウンになっている。 <冬用>は、わずかに濃淡のあるライト・パープルの地に、同じように濃淡のあるサーモン・ピンクの小花が施されている。また春・秋と同じパターンで襟・袖などは、鮮やかな茄子紺が使われキリリと引き締まっている。そして、そのローブ・ジャケットの上から純白のドレープ・ストールが柔らかに流れ、両の肩には金モールを飾り付けた白い鳥の羽の肩章が取り付けられている。ズボンは色合い等は合用と同じで、少し厚めの生地が使用されている。 「みんな、よく頑張りましたね。すばらしいですよ」 「お前等の執念の賜物だな」 上司二人からの労いの言葉に、メンバー達は皆満足そうに頬を紅潮させ、嬉しさを噛締めていた。 「みんな本当にありがとう!! 俺のわがままに付き合せちまって、すまなかった…」 橋本が目頭を熱くしながら全員に頭を下げた。すると… 「なに殊勝な事言ってんのよ! それに皆、あなたの為にやったんじゃないわよ!」 「そっ! これは"石川さん"の為よ♪」 ―ねぇっ、とにっこり微笑み合う女性達の横で、景山と安中も真面目な顔でうんうんと大袈裟に頷いている。 そんなやりとりに廊下の野次馬達から爆笑がおこり、やんやと声が飛んだ♪ 「あなた達には特別休暇をさしあげますよ。ゆっくり休んで、英気を養ってください!」 「ありがとうございますっっ!!」 「さあっ! 最後のしめくくりだ! きっちり納品してこいっ!」 「はいっ!!」 にこにこ顔の宮坂からのご褒美に、小躍りして喜ぶメンバー達に、武田がぴしゃりとカツをいれた。 ― * ― * ― * ― * ― * ― 受付当番の隊員にIDカードを提示すると「こちらでお待ち下さい」と、館内に案内された。 広い部屋の一角にあるソファーに橋本と尾上が座り、その隣で国見は衣装ケースを積み上げた台車の横に立ったままでいる。 ここはJDG本部に隣接した隊員寮の中にあるラウンジなのだ。 出来上がったフォーマル制服をお届に上がるべく、午前中にアポをとろうとしたものの、あいにくと石川は本日が非番の日だった為、本部にはおらず連絡が取れなかった。では明日にでも…と思っていたところへ石川本人から連絡が入り、寮の方で受け渡しをすることになったのだ。 その為、こうして指定された時間に"ここ"に赴いて来たのだった。 実は、DG設立当時からの営業担当である尾上にしてみても、この寮に訪れたのははじめての事。通い慣れた本部とは雰囲気が違い、三人とも何やら緊張している。 「お待たせしてすみません」 そんな三人の緊張をほぐすかのように、よく通る爽やかな声がかかった。 みれば、ラウンジ入り口にちょうど石川が入ってきたところだった。 ヘアースタイルも自然のままで、スリム・パンツにカッターシャツをあわせ、その上に極太のウールでざっくりと編んだセーター、というラフな姿の石川に、三人はしばし唖然と見惚れてしまった。 本部でのいつも見馴れたキリリとした制服姿の印象とはちがい、その…なんというか、とても幼く見えたからだ。 そんな石川が、目の前に立った時、我に返った尾上があわててソファーから立ち上がり挨拶をした。 「あ… いえ、こちらこそ、お休みのところ申し訳ございません」 「かまいませんよ」 そうにっこり微笑む石川に、橋本と国見の二人がますます呆けてしまう。 そんな二人をほっておいて、尾上はさっそく正装服の受け渡しをはじめた。 「こ…これ、全部ですか?!」 台車に積み上げている衣装ケースの多さに、石川が驚いている。 「はい。春夏秋冬4シーズンすべて揃えてございます」 「すごい量だなぁ〜」 二人の会話にやっと正気にもどった橋本がファッション・コーディネーターとしての顔になって、ずずずすっと石川に迫っていく。 「おそれいりますが、試着して見せてはいただけませんでしょうか!!」 「えっ、今ここでですか?」 「はいっ! あ、いえ…もちろんお召し替えは別室でどうぞ」 「ははは、じゃぁ…自室で着替えてきますので、ちょっと待っていて下さい」 そう言って、国見から冬用一式(ジャケット、ズボン、シャツ、靴&手袋)を手渡された石川は、ラウンジから自室へと帰って行った。 わくわくしながら待っていると、10分ほどで再びラウンジに石川が姿を現した。 その彼の後ろには、なぜかぞろぞろと野郎共が群がって付いて来ている。 実は彼等は皆、今日が非番の隊員達なのだが、たまたま、自室から出できた石川の正装姿をみかけた者が皆にふれまわって、わらわらと集まって来たのだった。 「すげぇ〜… あれが今度のフォーマルなんだぁ〜」 「教官・・・かっこええええ」 隊員達からの羨望の眼差しと呟きが、ざわざわとホールに広がって行く。 橋本達も想像以上に似合っているその姿に、感動しながら石川を迎えた。 「この花柄が・・・ちょっと恥ずかしいなぁ〜」 当の石川は、自分の胸元を押さえながら照れている。 「大丈夫ですよ! 実はまだその上にこのストールを掛けていただきますから…」 橋本は―ちょっと失礼、と云いながら石川の左肩から腰にかけて、ふわりとした純白のドレープ・ストールを着せ掛けた。そして両肩に金モールに飾られた白い羽根の肩章を留め付けた。 「はい、これでコーディネート完成です♪」 石川の肩に手を掛けていた橋本が、うんうんと自分で納得しながら頷いて、数歩後ろに下がると、とたんに隊員達から「おおおっ」っという、どよめきがおこった。 見れば全員、"ハートまなこ"になっている。 隊員どころか、国見までもが仕事を忘れて蕩けて見惚れてしまっている。 『よっしゃっっっ!!!』 まわりのその反応を見て橋本は、心の中で勝利の雄叫びをあげた。 石川のその姿は橋本の想像をはるかに凌駕するほどすばらしかった。 そんなまわりの誰もが皆、呆然としたまま何も言わない事に不安に思った石川が「俺…変ですか?」と、小首を傾げながら尾上に問い掛けた。 「えっ、 いえいえとんでもないっ!! もう、とっっっっってもステキですよ!!」 石川の問いにニッコリ微笑み答える尾上も、心の中でVサインを振り振り踊っていた。 『ええ、ステキですともっvv すっっごくイイ目の保養だわっっ♪♪』 自分がどれだけ魅力的な存在なのか、全然気付いていない石川は、「そうですか…」などといつもの天然さを発揮して見せてくれた。 「お召しになってみて、動き難くはありませんか?」 橋本がそう問い掛けてみると、そうですねぇ…と云いながら、ちらりと横を見た石川は、スタスタと今だ呆けている隊員の一人に近付いた。 「ちょっと相手をたのむな!」 と、云うが早いか、返事を返す間もなく、その隊員の巨体は宙を舞っていた。 ― ドシンっ!! ― 石川のみごとな背負い投げが決まっていた!! すかさず隊員達から「さすがっ!!」と、一斉に拍手がわきおこった。 石川は、投げ飛ばした隊員に手を貸して助け起こしてやりながら、着衣も息すらも乱すことなく、にっこりと微笑み 「大丈夫です、支障は有りません。じゅうぶん動けますよ」 と、橋本にOKを出した。 『やっぱこの人…キレイなだけじゃなくって、めっちゃ強いんだ…カッコイイ!』 国見はますます惚れ込んでしまっていた。 その後は、残りの3シーズンに関しての説明などをして、無事、納品の大役を終えることが出来た。 ― * ― * ― * ― * ― * ― 1月20日。 2020年通常国会開会式が行われる今日、MPカンパニーの社員食堂には、朝から人だかりができていた。 だが、食事をするわけでもなく、皆が大画面のTVに注目している。 誰もが仕事をそっちのけで、ここに集まって来ているのだ。もちろんお目当ては国会生中継だ! ― わくわく どきどき ― 「おっ、そろそろだな!」 「ちゃんと映してくれるかしらぁ〜」 社員達の期待が高まる。 ――画面は国会の正門を映している。すると画面の端に、正門横に整列しているJDGの外警隊員が数名映し出された。 「きゃぁvv 西脇さんだわぁ〜♪」 女子社員が目敏く見つけた。 ――間もなく、白バイに先導された黒塗りの車が到着し、正面玄関車寄せに横付けされた。レポーターが陛下の到着を告げている。 いよいよだ! ここに居る皆、固唾を飲んで画面を食い入る様に見つめた。 ――赤い絨毯を敷いたエントランスの階段を登りきった陛下をカメラが追うと、ホール中央で内閣総理大臣と衆参両院の議長が出迎えている。 そして、その横に補佐役の三舟と共に並んだJDG第8代教官・石川 悠の姿が映し出された! 辺りがシーンと静まり返った。 ハイビジョン画面に映し出された、淡い藤色のフォーマル・ユニフォームに身を包んだ石川の、気品溢れるその姿に、全員が魂を奪われてしまった。 ――陛下と首相を追うはずのカメラが、まるで引き止められているかのように、石川の凛とした姿を数秒間映し続けた。と、その後、我に帰ったように再び陛下の姿を追った。 「!!!!!」 「きゃぁぁぁぁっっvvv」 「ブラボーっっっっ!!!!!」 瞬間、食堂中に大歓声が巻き起こった。 社員達が総立ちになって感動している。 その渦の中央では、このプロジェクトを成し遂げた橋本・尾上・国見・景山・安中・山口・三島・本河の8名が、喜びの抱擁を交し合っていた。 そして、壁際最後尾では、そんな彼らの姿を満足そうに見守りながら、宮坂と武田が、かたく握手を交わしていた。 END |
な、なんとか終わりました(^^;)
こぉんな、ほとんどオリジナルなストーリーに最後まで
お付き合い下さって、ありがとうございますm(_._)m
これも私なりの一つの“JDG&石川さん賛歌”なのです!
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