新時代到来

<2>

 城教官の葬儀から一月ほど過ぎた12月20日午後。
 警備委員会からの呼び出しで、尾上と国見の両名はJDG本部へ出向いていた。

 そして就業時間終了間近に、二人がすこぶる上機嫌でオフィスに帰ってきた。
 興奮気味のその様子を事務所の全員が注目している中、二人は上司の武田へ報告するべくデスクに向かう。
「ただいま帰りました」
「うむ、ご苦労。で、用件は?」
「はい。次期教官決定の通知と、それに伴う発注依頼です」

 彼女の<教官決定>の言を受けて、事務所の中が静まり返った。
 その雰囲気を察っした武田は、わざと皆に聞こえるように声量を上げて問う。
「やっと決まったか!?」
 尾上もそれに合わせて、女神の微笑を浮かべながら答えた。
「はい。明日12月21日付けにて第8代JDG教官に、石川さんが就任されることになりました」

 瞬間、部屋中に拍手と歓声がワッと上がった!!

 尾上の隣に立っている国見が後ろを振り向き、事務の女の子達にVサインを送くれば、女の子達は皆で手を取り合ってキャッキャと喜びはしゃいぎ始めた♪
 このニュースは瞬く間に社内中に伝達され、各部所でも同様に歓声が沸きあがっていった。

 ここにいる誰もがみんな、石川のJDG教官任命を喜んでいるのだ。

「新教官決定に伴い、いつものように指揮官用の正装ユニホーム一式のご注文が委員会よりありました」
「そうか」
「ただ、ちょっと問題が… 新年早々1月20日の通常国会開会式にさっそく着用されます。ですから、その前日までに確実に納入しないとなりませんので、納期に余裕がないのです。土日祝日と年末年始休暇を除きますと実質稼働日数は15日余りしかありません」

 正装フルセット――コート、上下スーツ(冬・合・夏の3セット)、ドレスシャツ、ベスト、帽子、靴、手袋、他付属小物類――を揃えるには普通ならば2ヶ月はかかる。おおまかなサイズ分けしている既製制服とは違い、すべて本人に合わせたオーダーメイドの上、装飾も多いので製作に時間がかかるのだ。

「それはキツイな… どうしても無理そうな場合は、急を要する冬用一式だけを先行納品させてもらい、残りは春まで待っていただくように交渉してみるか…」
「最終手段として、それもしかたがありませんね。ともかく、お針子さん達には『憧れの石川さんの晴れ姿の為よ♪』ってハッパかけて頑張ってもらわなくてはなりませんわ」
「ははは(^^;) 彼女達も石川さんファンか?」
「じゃぁない人間がこの会社にいますか、本部長?」
 国見の切り返しに全員が笑った。

 なごやかな雰囲気で打ち合わせをしている彼らの元へ、デザイナーの橋本が資料ファイルを抱えて別室より駆けつけてきた。
「武田さんっ! JDGの件でご相談がありますっ!」
「なんだ、もうお前の処まで情報がまわったのか(笑)」
「そりゃもう! みんな狂喜乱舞ですよ♪」
「大袈裟だな。で、相談とは何だ」
 問われて橋本は、武田のデスクの上に数枚のデザイン画を広げた。

「これは今までの指揮官の正装デザイン集です。通常の制服は機能性を改良する為にこれまで何度かデザイン変更をしてきましたが、儀礼用の正装については設立当初のデザインのまま、ずっと使用されてきています」
「そうだな。陛下をお迎えする開会式と、来日した国賓VIPが視察に来た時の式典ぐらいしか着用しないからな」
「そう言えば、歴代指揮官の方で一度も正式に式典で着用する機会がないまま、すぐに殉職された人もいらっしゃるわね…」
 尾上は、わずかばかり眉をよせながら思い出すように言った。

「そうなんっすかぁ?」
 新人の国見が驚いてもしかたはない。
「ええ。5年間に7人殉職してるんですもの。ほとんどの教官が数ヶ月しかもってないのよ…。城教官は長かったほうかしら…。初めて袖を通すのがご自分の葬儀の柩の中で…という方々が何人かいらっしゃるわけ(ーー;) 教官って、それだけテロに狙われているってこと。激務よねぇ〜…」
「なんか…石川さんの就任をホントに喜んでいいのかなぁ〜 オレ、あの人がそんな危険なめに合うのなんか嫌っスよっ!!」
 国見が眉毛を垂れ下げ情け無さそうな顔で口をとがらせた。

「おい、話を脱線させないでくれよお二人さん」
「あっ、す、すみませんm(_._)m」
 恐縮してぺこりと謝る国見をおもしろそうに笑い飛ばしながら、あらためて橋本は武田に向う。
「まあ、そんなワケで、このデザインは古い上に、初代指揮官の年齢に合わせたデザインですから、はっきり言って中年仕様なんです。ですから若い石川さんには、全っっっっ然似合わないんですっ!!」
「まさか…『デザインを変更したい』とか言うんじゃないだろうなぁ…」
「ええ、その『まさか』ですっ!」
「駄目だ!」
 即答で却下された。
「そこをナンとかっ!」
「無理だ!」
 けんもほろろな武田。

「どうしてですかっ?!」
「今も話していたところだが、納期が差し迫っている。1ヶ月しかないんだからな。デザイン変更すると言うことは従来の資材が使えないということだろ? 新に資材調達するとしても、あと1週間もすればどこの問屋もメーカーも正月休みに入る。それで資材が揃うのか? それに今から委員会の承諾を取ろうとすればかなりの日数にロスがでる。 無理だな」
 武田は管理職としての冷静な判断を下している。

「資材についてはなんとか揃えますっ!!それにオレもミシンがけするつもりです!」
 橋本も負けじと食い下がる。
「こんなダサイもん、石川さんに着てほしくないんですっ! 俺の美学が許さねェっ!」
 拳を握り締めて力説してみせた。

「『ダサイ』って、コレもあなたが自分でデザインしたものでしょ(ーー;)」
 そんな橋本に、尾上がデザイン画を指でつつきながら、あきれたように苦笑して言った。
「ああ、今までのとうのたったオヤジさん達ならコレで充分なのさ。だか相手があの石川さんなら話しは別だぜ!」
「まぁ私だって、コレが石川さんに相応しいとは思えないわよ。でもねぇ〜…」

 そんな尾上に向かって、橋本はシリアスに低音ですごんでみせる。
「貴美江姐さんよぉ、あんた達は、あの葬儀ん時の悔しさを忘れちまったのかい? イケ好かねぇ外野のタヌキやスズメどもが、石川さんの事をさんざん侮辱しやがった事をよっ!」

「忘れるもんですかっ!!」
 あの日の悔しさをまだ鮮明に覚えている尾上が叫ぶ!

「だよな! だったら解るだろうが。当日こいつを着た石川さんを見たアイツらが言いそうなことがよ。『貫禄がない』だの『見劣りする』だのせせら笑うのがおちだぜっ」
 橋本はさも嫌そうにハキ捨てた。
「……」
「俺はそんな奴らを、しのごの言わせず黙らせたいんだ。あの人の優美さとエレガントさを引き立てる最高の物を作ってあげたいんだよっ!」
 尾上はあきれたように軽くため息をはき、
「…(ーー;) あなたも、そうとうな石川さん贔屓ね」
 と、苦笑を浮かべた。

「お互い様だろ?!」
 二人はニヤリと笑いあった。

 尾上はひとつ大きく深呼吸すると、武田の正面に向き直った。
「本部長! 私からもお願いします。新デザインでやらせて下さい!」
「オレもっっ お願いしまっすっ!!」
 尾上にならんで国見も、その大きな肢体を折りたたんだ。

「… ったく、おまえら…」
 武田本部長が顔をしかめ困りきっていた。

 その時…
「やらせてみましょう」
 部下達の背後から声がかかった。

「社長っ!」
 そこには笑顔をたたえた宮坂社長が立っていた。

「しかし…時間的にも予算的にもキツイものがありますよ」
「解っていますよ。 彼らがここまで言うのだから時間のほうはなんとかするでしょう。 だろ?」
「はいっ!(3人)」
「予算の不足分は、私からの石川さんへの"お祝い"ということにしておきます」
「社長がそうおっしゃるのでしたら… (部下達に向かって)よしっ! 言い出した限りは半端な仕事するんじゃないぞっ!!」
「ありがとうございますっ!!!」
 再び部屋中に歓声がわきあがった。

「警備委員会の承諾は私が取付けておくから、今からでも心置きなくはじめなさい」
「社長っっ、重ね重ねありがとうこざいますっ! 宜しくお願いしますっ!!!」

 最敬礼しハリキッテ去って行く部下達の姿を、笑顔で見送る宮坂に武田が苦笑まじりに話し掛けた。
「社長もかなりの重症のようですね(^^;)」
「そう云う武田さんあなたこそ、ホントは自分が先陣切ってやりたいんでしょう?!」
 そう反された武田は明後日のほうを向いてすっとぼけてみせた。




                             つづく












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