ここが、俺の… 俺達の…

 最寄りの地下鉄駅を出ると、見慣れた―と、自然にそう思える街並が目の前にひろがった。次の角を曲がれば国会議事堂への通りにさしかかる…。

―― あ、見えてきた! いよいよだな
本当にこんな俺が『ただいま』って云っていいんだろうか…。――


 休暇で実家に帰省しようとした俺は、駅前で起こった爆弾事件に巻き込まれて、記憶障害をおこしてしまった。当初は記憶が17歳まで退行してしまったんだ。
その上、末弟の登が俺の身を案じるあまり、本当の事を隠してしまっていた。だから、父の死はおろか、自分が東京で何をしていたのかさえ知らされないままだった。
 だけど、晋とともに駆け付けて来た基寿さんや、西脇達のおかげで、国会警備隊入隊時までの記憶が戻って来たんだ。


 そして、今―――
 前に進むために俺は、自分の意志でここに帰って来た。

 隊員専用の門まで来た時、グレイがにっこり、お帰りと出迎えてくれた。

 ―― えっ、どうしてグレイが・・・? ――

 グレイは、俺が訓練校2年目の時のロス研修で知り合った仲間だ。だから彼は今、ロスDG隊員になっているはずなんだけど、こっちに研修できているのかな? それに、いつのまにか日本語が上手くなっている。たしか、しゃべれなかったはずだけど…。こんなところにも確かな時が流れているのを感じるな。
 一瞬ものおもいにふけっていると、早く中に入って…って促されてしまった。
 基寿さんにエスコートされ、いよいよ議事堂敷地内に足を踏み入れた。

「お帰りなさい 隊長!」

 外警以外も含めてたくさんの隊員達が、前庭まで出てきて明るく元気に声をかけてくれた。

「ただいま 留守中心配かけたな」
 今の俺には彼等の顔は誰一人として憶えがない、…が、まちがいなく彼等は【隊長】としての俺の部下達なのだ。
 ひとりひとりの顔を見まわしていたら、感無量って顔付きで泣き出すヤツまでいて、俺も胸に熱いものが込み上げてきてしまった。

 基寿さんと会話しながら館内に入ると、そこには西脇,宇崎,クロウの同期3人と、先輩の三舟さん,森繁さん、紀井さん,野田さん(彼等はみんな入隊したての頃の記憶しかない俺でもはっきりと認識できる数少の人達だ)、それから、えと…確か橋爪さんが持って来てくれたあのディスクに映っていた(基寿さんが悪友ですと云ってた)アレクが待っていた。
 宇崎の微笑みに癒されながら、西脇に目をやれば、労う言葉をかけてくる。

「お前を道連れにするわけにいかないから戻ってきたぞ 西脇」
「これからが勝負です」

―― すべてを取り戻す! ――

 その為に俺はここへ帰って来たのだから。

 そのまま彼等と上階にある班長会議室に向かった。
 昨日、前に進む決心をしてから、基寿さんに今の隊や俺の現状をいろいろ教えてもらって来たから、西脇達の説明もおおかた把握できた。委員会対策の事もいろいろと考えて、とても気遣ってくれている。

  ―― 早く記憶を取り戻したい! ――

 それにしても、事情を知っているこのメンバー以外の、他の隊員達の事を憶えてなくて、まるで騙しているような今の状態が心苦しい。
 そう云うと、西脇が
「隊員達はどう出迎えてくれました?」
って、聞いてきた。

「どう…って 明るく笑顔で…」
「『隊長』と?」
「まさか・・・」

「全隊員 全て知ってます」

―― う、嘘だろ… まさか… そんな…
全て知った上で、こんな俺を、隊長として受け入れてくれるなんて… ――

「みんな あなたが隊長であることを望んでるんですよ」
「『石川隊長』はそれ程の人なんです」

―― なんで… なんで俺…
   こんな大切なことまで忘れてしまったんだろう 
あぁ、魂が熱くなる… 
早く任務就きたい! この仲間達の中に帰ってきたい! ――

 焦りにも似た渇望が、身体の芯から俺を揺さぶる。
「今日から入りたい」
「そう言うと思いました」
 さも心得ていると言わんばかりに、西脇は片眉を上げてニッと笑いやがった。すると、宇崎が『それでこそ石川だ』って言いながら抱き着いてきた。あは♪   その横でクロウは意味有りげに基寿さんを見上げている。クロウのことだ…何かあるな。
 そして、先輩方はニコニコと頷き合っている。

「じゃ、寮に荷物を置いて、さっそく着替えて来ましょう!」
 ニッコリと微笑みながら基寿さんがそう促してくれた。
 み、みんなのいる前で、そんな包み込むような優しい顔で見つめられると… あぁ、もう!
 自分の顔が赤くなるのがわかる。こ、こんなんで大丈夫かなぁ〜?ずっと、基寿さんと一緒にいられるのは嬉しいけれど、ドキドキするな〜。本来の俺は平気でちゃんと任務に就けてたんだろうか…?
 恥かしくって思わず俯いてしまった俺に、基寿さんが『どうしましたか?』って心配そうに肩に手をかけて覗きこんできた。
「な、なんでもない。行こうか!」
 必死で動悸を整えながら顔を上げて、俺も微笑み返して言った。

「では、中央管理室でお待ちしています。」
 みんなの笑顔と三舟さんの言葉に見送られて、俺と基寿さんは会議室を後にした。
 そういえば、『隊長』である俺は三舟さん達先輩方のことを、任務中は呼び捨てで呼ばなくちゃいけないんだよな…。あっ、基寿さんも『岩瀬』って呼ぶんだったな…で、できるかな〜。

 道すがら出会う隊員達に笑顔で歓迎されなが、俺達は議事堂に隣接する隊員寮へと向って行く。
 新入隊員としての記憶しかない俺だけど、こうゆうハード面はあまり変ってないから、ひとりでも迷子になることはなさそうだ。
 そんなふうに思っていると、斜め1歩後ろを歩いている基寿さんが『以前と変わりないでしょ?』って。まるで俺の考えていることが解っているみたいで、ちょっとびっくりしてしまった。
 それに…、実家に居た時は俺の横に並んで歩いてくれていたのに、羽田に降り立った瞬間から、こうして1歩後ろに位置を変えた基寿さん。これって、やはり彼が『隊長付きSP』なんだっていう証。

 寮館に入るとここでも、夜勤前や非番の隊員達がラウンジで迎えてくれた。わざわざこんなにいっぱい顔を出してくれるなんて、いったい誰がつくった連絡網なのかな。ははは♪
 エレベーターでけっこう上階まで上がっていった。
 俺が憶えている寮の部屋はB―6号室で、1年先輩と同室の二人部屋なんだよな あの当時は指揮官級の方達はほとんど既婚者だったから、自宅通勤の人が多かったんだ。だから部屋は余っていたぐらいで、ベテランの独身者は上階で二人部屋を一人で使っていたんだっけ。
 今は若い独身隊員が増えたて、逆に部屋数が足らないらしく、全て相部屋にしているって、基寿さんが教えてくれたよな。今の俺の部屋はどんなのかなぁ〜?!
 そうこうしていたら、エレベーターが止った。

 ――あれ?このフロアーは部屋数が少ないな… ――

 ぽつんぽつんとしか扉がない廊下を奥まで行って突き当たりを曲がったところには扉が1つだけ見える。

 ―― えっ、もしかして、この角部屋が俺の部屋なのかぁ? ――

 扉の前に辿り着き、右横の壁にあるプレートを見れば、そこにはルーム・ナンバーとともに【隊長・補佐官】って書いてある。

 ―― やっぱり、ここが俺の部屋なんだぁ〜
名前じゃなくって役職名で書いてあるんだな。 って…待てよ
『補佐官』って、も、基寿さんのことだよな!!
うわっうわっ! どうしよう; 基寿さんと同室なんだ!
う、嬉しいけど/// は、は、は、恥かしいぃかもぉぉぉぉぉぉ ――

 動揺してしまって、カード・キーを落しそうになってしまった。なんとか無事カードを刺し込むことができたけど、手が震えてしまっていたのを基寿さんに気付かれでしまったかな・・・。
 で、すーとドアがスライドして開き、室内に1歩足を踏み入れたとたん、俺はその場で言葉も無く固まってしまった!

 
―― ・・・・・・・○×△◇√#£☆ΨΦ ――

「悠さん、どうしたんですか?」
 動かない俺をいぶかしんだ基寿さんが後ろから声をかけてきてけど、今の俺にはその声は聞えてなかった。いや、聞えてるけど脳が機能していないのだ。
 なぜなら・・・
 今、俺の目の前に広がっている光景にパニクっているんだから…
 だって、だってだぞ! 
 室内の広さにも驚かされたけど…なにより、その広い部屋の中央に
 巨大なキングサイズ・ベッドが、ドデンと鎮座しているんだぞぉぉぉぉぉ!

 
―― うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ――

 この光景はあまりにも刺激的すぎる。基寿さんへの想いを自覚したばかりで、おまけにその基寿さんと恋人なんだって教えてもらったばかりなのに… 
こ、こんな…
 ―― こ、こ、このベッドで基寿さんと、い、一緒に寝てるのか俺?!
あわぁ〜/// えと その あの///  ――

 たぶん真っ赤になってるだろう顔を、おそるおそる後ろに向けて基寿さんに問いかけてみる。

「あの… ここが俺の… 部屋?」

 すると基寿さんは、俺が『何』にフリーズしているのか感付いたのだと思う。ふっと微笑って俺と目を合わせた後、視線を促し誘うようにベッドへと流して、

「はい♪ ここが、俺達の… 悠さんと俺の『愛の巣』ですv」

     ボンッ
(茹蛸状態) ドサッ(ボストンバッグを落した音)

 基寿さんの視線に釣られて、再びベッドを見てしまったじゃぁないか!
うわうわぁぁぁと、ますますパニックになってあたふたしている俺を、ふわり と、基寿さんの腕が包んできた。
 そして…

「お帰りなさい」

 耳元で優しく囁いて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 あぁぁ、そんなふうに囁かれると・・・立ってられなくなりそうだ…
 基寿さんの腕にしがみ付くように支えられてやっと立っている俺///…
「え…と、あの…///」

 なおもうろたえていると ―くすり―と、基寿さんが笑い、くるりと俺の身体を廻して顔を合わせてくれた。
「さ、早く着替えましょ♪」
「あっ、う、うん…」

 俺が返事をすると、にこっと微笑んでくれて、落としていたボストンバッグを拾って部屋の奥に導いてくれた。
「悠さんの着替えは、クローゼットのこっちの扉のほうにありますからね♪ それから、制服はいつもこのポールに掛けてあります。」
「うん、解った。ありがとうございます」
「ほらダメですよ! もう俺には丁寧語は必要ないですから、ね」

 そう云って笑いながら基寿さんはすぐに自分の着替えを取り出して、俺の目の前で豪快に着替え始めた。
 俺も教えてもらったクローゼットを開けて、シャツを選び出して着替える事にした。
 私服のシャツを脱いでいると、ふと、視線を感じたので振り返ってみると、基寿さんが優しそうに目を細めて俺を視ていた。

 うわぁ…/// また顔が赤くなるぅ〜///
 どうしてだろ… 男同士なんだから、裸を見られたってどうってことないはずなのに、弟達や西脇達の前でだったら全然平気なのに、やっぱり基寿さんだと、恥ずかしいぃぃぃ///
「あ、あの/// そ、そんなに視ないでください///」

「やっとこうして、この部屋に貴方が帰って来てくれたのが嬉しくて、ついvv」
「//////」
 うっとりと見つめられ、キレイですよv って云われ、ますます恥ずかしくなって思わず、丸めたシャツで基寿さんの顔を覆ってしまた;;
 そんなふうにまたまた軽くバニクリそうになった俺を、
「これ以上、あなたの素肌を見つめていたら、即効ベッドに押し倒したくなっちゃいそうなので、俺はあっち向いて着替えます。だから安心して着替えて下さいね♪」
 と、苦笑しながら基寿さんがなだめてくれた。

――あぅ〜/// こんなリアクションしてる俺って、これじゃまるで女の子みたいじゃぁないかぁ///;;――

 自分の反応にちょっと反省しながらもドキドキと、俺達は互いに背中を向け合って着替えを済ませた。

 きゅっとネクタイを整え、無線機を左耳にセットし終わり、再び振り向くと、ちょうど基寿さんも仕度が整ったところだった。
 やっぱり制服を着込むと心も体もシャンとする!

「やはり、貴方は“隊長”です! カッコイイですよvv」
「ばか///」

 くすっと笑った基寿さんは、瞬時にきりりと表情を変え

「さぁ、行きましょう!」

 と、手を伸ばして来た。 俺はその手をしっかりと握り返して言った!

「ああ、行こう!! 俺の… 俺達の戦いの場へ…」




                               おわり


読んでくださってありがとうございます(*^^*)
これは25巻の隙間ネタです。

ずっっっと以前から告知しておきながら、なかなか書き上げられなくて
今頃になってしまいました(^^;)


実は、コレ…
6月のオンリー・イベントにコピー本として発行したのですが、
その後、少しだけ加筆訂正してこちらにUPさせていただきました!





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